ミックスボイスにおける「腹式呼吸」
「歌が上手くなる方法」や「ミックスボイスの出し方」などではよく「腹式呼吸が大事!」と言われていますが、実際のところ発声の呼吸法は何でもいいです。
発声における「呼吸」とは、声帯を振動させるための空気を送り出すポンプでしかありません。どんな呼吸法だろうと、肺から出た空気が声帯を振動させるということに違いはないです。
目次
呼吸の仕組み
空気を吸い込んだり吐いたりするのは肺ですが、肺そのものには筋肉がありません。そのため、横隔膜など周りの様々な筋肉によって胸腔(胸の空間)を広げたり狭くしたりすることで圧力を変化させ、それに応じて肺は膨らんだりしぼんだりしています。※画像1
胸式呼吸
胸腔を拡縮させる筋肉は、大きく分けて2つ筋肉が関わっています。
一つは「外肋間筋」という、あばら骨の間にある筋肉です。
この筋肉が収縮することにより胸郭(胸の骨格)が広がり、肺が膨らまされます。力を抜くと元に戻り、空気が吐き出されます。※画像2
この動作をメインに行われる呼吸方法が「胸式呼吸」と呼ばれるものです。
胸式呼吸は上半身を大きく動かすので、それに連動して肩が上がったり首や喉に余計な力が入りやすくなってしまいます。
しかし、それさえきちんと理解して余計な力が入らないようにすれば、胸式呼吸でも問題なく歌は歌えます。ウィスパーボイスなど息が多めの優しい声で表現したい場合は、胸式呼吸の方が適していたりもします。
腹式呼吸
胸郭を広げるもう一つの筋肉は「横隔膜」という、肺の下にあるドーム状の筋肉です。横隔膜は収縮することでドーム状から平坦になり、胸腔を広げます。ドームの中には内臓があるので、平坦になると内臓が押し下げられお腹が膨らみます。力を抜くとドーム状に戻り、空気が押し出されます。※画像3
横隔膜によって広がる胸腔は肋骨による場合より大きく広がるので、腹式呼吸は胸式呼吸より多くの空気を吸い込めるというメリットがあります。
腹式呼吸の説明では、よく「腹式呼吸は鼻から吸う!」と聞きますが、発声においては口でも鼻でもどちらでも構いません。
確かに、鼻から吸った方が口の中や喉が乾きにくく、より深く吸うことができます。しかし、歌の中で息継ぎをする場合には、口から吸った方が一瞬で大量の空気を吸い込めるため鼻で吸うより適しています。
どちらで吸っても声帯の振動には何の関係もないので、好きなように吸いましょう。
また、「横隔膜を上下させる」ともよく言われていますが、これは間違いです。
説明した通り、横隔膜はドーム状の筋肉で、収縮すると平坦になります。そして力が抜けると元に戻り、自然と空気が吐き出されます。なので、横隔膜は注射器のゴムのように上へ下へと自由に移動するものではありません。「吐く」という動作において、横隔膜には力が入っていないのです。
腹式発声
安静時(日常の呼吸)においての腹式呼吸では「横隔膜を下げ空気を吸い込み、力を抜いて自然に吐き出す」という呼吸で問題ありません。しかし発声においては、筋肉の弛緩で自然と吐き出される空気では声量が足りずロングトーンも難しいです。では、強く安定した息を吐くにはどうすればいいか。
それは腹筋で支えを作ることです。
自然に吐き出される以上の空気を吐き出すには、横隔膜以外の筋肉を使って胸郭を狭め、肺というポンプをギュッと押す必要があります。それは内肋間筋や腹斜筋など、胸やお腹の周りにある様々な筋肉によってなされますが、最も重要なのが腹筋の支えです。
お腹に全く力を入れず、胸周りだけに力を入れて息を限界まで吐いてみてください。すると、勝手にお腹が膨らんだと思います。これは肺が横から押されたことで肺が下に膨らみ内臓を押し下げているためです。風船を横から押すとムニュッと上下に膨らむのと同じです。
これを下から腹筋で支えることで、上から最大限の空気が押し出されるようにするのです。これが「腹式発声」です。
「腹式呼吸はお腹を凹ませて息を吐く!」「お腹を凹ませて声を出す!」と言う人もいますが、間違いです。
健康法としては良いのかもしれませんが、発声においては無意味です。お腹を凹ませるという意識だと余計な力が入ってしまう原因にもなります。声を出すたびお腹を凹ませてる歌手なんていませんし、歌うのに肺の中の空気を完全に絞り出す必要もありません。
大切なのは下から支えることであって、胸式呼吸か腹式呼吸かなんてのはどーでもいいんです。強く安定した息を吐く時は必ず胸の筋肉も使っていますし、横隔膜に力が入るのは吸う時のみです。
支えを作る練習法
しなくていいです。
首や喉に力が入ったりお腹が膨らんでしまわないように、適度に腹筋に力を入れて支えながら息を吐ければそれで大丈夫です。筋トレをして腹筋を鍛えたりする必要はありませんし、腹筋をいくら鍛えたところで声量はアップしません。呼吸法に練習時間を割くなら他の発声練習に時間を使った方がいいです。
もちろん、腹筋で支えるのが全くできないという人は練習してくださいね。